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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和55年(ワ)299号 判決

原告 甲野一郎

右法定代理人親権者父 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 前田貢

被告 尼崎市

右代表者市長 野草平十郎

右訴訟代理人弁護士 大白勝

同 梶原高明

被告指定代理人 加藤真実

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一九四万九九二三円及び内金一六四万九九二三円に対する昭和五一年一二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  予備的に仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五一年一二月三日、原告が在籍する尼崎市立園田東小学校五年三組においては、担任の福本吉雄教諭が午後から不在のため、第五校時(午後一時一〇分から一時五〇分)は算数の自習時間当てられていた。

同組の出席児童は四一名であったが、同日午後一時四〇分ころ教室内は話をする者、席を離れる者などでざわめいていた。

そのころ、原告が教室の後方にある自分の机を乙山春夫の机の横に移動させようとしたので、丙川夏夫がこれを阻止しようとして、原告との間で口論となった。そこで、これを聞きつけた児童が二人を取り囲むように集まってきて、丙川と口論する原告をこづいたりして騒ぐうちに、誰かが原告の髪をつかんで後ろへ引っ張った。原告は、その場にいた丁原秋夫が引っ張ったものと思って丁原の方へ向いたところ、誰かが後ろから原告の頭を押さえつけ、同時に丁原が右膝を上げたために、原告の左眼窩部が丁原の右膝に強く打ちつけられて、原告は左眼窩壁骨折、左眼窩鼻腔内出血、左眼麻痺性外斜視の傷害を受けた。

2  被告の責任

(一) 小学校教師は、児童の学校における教育活動及びこれと密接不離の生活関係について、法定の監督義務者である親権者に代り、児童の身体の安全について万全を期すべき高度の注意義務が課せられている。

ところで、小学校五年生の児童は、自己の行動を理性的に制御する能力が未だ十分ではなく、何らかのきっかけによって付和雷同し、予想しない事故につながる可能性があるので、担任教師としてはこれを十分認識したうえでその対策を講じる義務がある。ところが、福本教諭は、本件事故当日の年後から不在のため児童に自習をさせなければならなくなったのであるから、このような場合、代りの監督教師を依頼するとか、他の教師に見回りを依頼する等の処置をとるべき義務があるにもかかわらず、右監督注意義務を怠り、漫然と児童に算数の教科書の問題をやるように命じただけで、児童を放置していたために、本件事故が発生したものである。

(二) 小学校校長は、校務をつかさどるとともに所属職員を監督する義務が課せられている。

園田東小学校校長西原嘉久は、本件のように担任教師が不在のため自習時間としなければならない場合には、代りの教師を配置するなどして児童の監督に遺漏がないように十分な対策を講じる義務があるにもかかわらず、教師及び児童に対する右監督義務を怠り、何らの対策も立てず、児童の自主性に任せたために、本件事故が発生したものである。

(三) 福本教諭及び西原校長は、兵庫県教育委員会より任命され、被告の教育行政事務に従事する公務員であり、その職務を行なうにつき前記の監督義務を怠った過失があるので、被告は国家賠償法一条により、原告の損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 治療経過及び後遺障害

原告は受傷後直ちに園田病院に入院し、昭和五一年一二月八日松本病院に転医して同月一六日手術を受け、同月二五日退院した。そして、昭和五二年一月二〇日松本病院に再入院して、同月二二日及び同月二九日にそれぞれ再手術を受け、同年二月五日退院し、同月七日から同年一〇月三日までの間(実日数二三日)同病院及び青木病院に通院して治療を受けた。

しかし、原告は前記受傷により、次の後遺障害が残った。

すなわち、左眼に麻痺性外斜視があるほか、眼球の右側への運動に高度の障害がある。そのため、正面に対象物を見ると二重に見えるので、顔を右に向けて視点を合わせなければならず、眼の疲労が極めて大きい。また、涙が出やすく、特に寒い時には常に涙が流れる状態であり、頭痛もある。

右の後遺障害は今後好転の可能性はなく、不自然な状態を強いられる右眼の視力は〇・六に低下した。

原告の右後遺障害は、一眼の眼球に著しい調節機能または運動障害を残すものとして、日本学校安全会法施行規則第一条の二第一項による別表の第一二級の障害に当ると診断された。

(二) 損害

(1) 治療費   金三三万二三六七円

原告は本件受傷により次の病院にそれぞれ治療費を支払った。

園田病院 金二万二四六〇円

済生会中津病院 金三九六三円

松本病院 金三〇万一〇四五円

青木病院 金一四七〇円

県立尼崎病院 金三四二九円

(2) 付添看護費 金一三万四五〇〇円

前記の入院日数四〇日間及び通院実日数二三日間にわたって家族の付添看護を要したが、右付添看護費は入院一日につき金二五〇〇円、通院一日につき金一五〇〇円である。

(3) 入院雑費   金二万四〇〇〇円

入院一日につき金六〇〇円である。

(4) 慰謝料      金二三〇万円

入通院及び後遺障害に対する慰謝料である。

(5) 弁護士費用     金三〇万円

(三) 損害填補

原告は日本学校安全会から療養費として金二四万〇九四四円、廃疾見舞金として金九〇万円を受領したので、損害額は前項(1)ないし(5)の合計金三〇九万〇八六七円からこれを控除した金一九四万九九二三円となる。

4  よって、原告は被告に対し、右損害金一九四万九九二三円及び弁護士費用を除く内金一六四万九九二三円に対する本件事故発生日の後である昭和五一年一二月四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告主張の日に尼崎市立園田東小学校五年三組担任の福本教諭が午後から不在のため、同組の第五校時は算数の自習時間にあてられていたこと、同日午後一時四〇分ころ、同組教室内において、丁原の右膝が原告の左眼窩部に当り、原告がその主張のとおりの傷害を受けたことは認める。

2  同2の(一)のうち、小学校教師が、児童の学校における教育活動及びこれと密接不離の生活関係について、法定の監督義務者である親権者に代り、児童の身体の安全について万全を期すべき注意義務を課せられていること、小学校五年生は自己の行動を理性的に制御する能力が十分であるとは言い難いことは認め、その余は争う。

同2の(二)のうち、小学校校長は校務をつかさどるとともに所属職員を監督する義務があることは認め、その余は争う。

同2の(三)のうち、福本教諭及び西原校長が兵庫県教育委員会より任命され、被告の教育行政事務に従事する公務員であることは認め、その余は争う。

3  同3の(一)のうち、原告がその主張の障害等級にあたると診断されたことは認め、その余は不知。同3の(二)は不知。同3の(三)のうち、原告が日本学校安全会からその主張の各金員を受領したことは認める。

4  同4は争う。

三  被告の主張

1  事故の発生についての事実経過は次のとおりである。

福本教諭は、事故当日午後から公務出張を命じられていたので、五年三組の児童に対して、第四校時(午前一一時三〇分から午後零時一〇分)の終了前の約一〇分間と給食指導終了時に、第五、六校時が自習時間になり、黒板に書いてある算数の課題を静かに学習すること、分らないところは班で相談して他の班には行かないこと等の指示を与えた。そして、福本教諭は、昼休みに五年四組(五年三組の隣接教室)担任の辻久則教諭に自習時間中の監督を依頼し、午後一時一〇分ころ、学校を出た。

辻教諭は午後一時一〇分すぎるころ、五年三組の自習の指導に行った。そのとき、二、三人の男子が自席を離れていたが、大多数の児童は熱心に課題と取り組んでいた。そこで、用事もないのに立ち歩かないよう、静かに学習するように指導して自分の学級に行った。

本件の自習時間のように、長時間の班別学習の場合は、四三名の児童を一〇班にわけ、各班ごとに机を並べさせていたが、一〇班の原告が九班の乙山と一緒に勉強するために、机を移動させた。

午後一時四〇分ころ、八班の丙川が教室の東北隅に鉛筆削りに行く途中、原告が机を移動していたので、原告の肩に手を置きながら、一〇班に帰るように注意をした。原告はその手を払おうとして、誤まって自分の筆箱を下に落としたが、丙川はそれに気づかず、そのまま鉛筆を削りに行った。丙川が鉛筆を削っているときに、原告が丙川に近づき、丙川の胸をつかんで壁に押しつけたことから口論となり、押し合いの喧嘩になった。

それを見て、騒ぎを止めようとした者や、面白半分で行った者、鉛筆を削ろうとした者が集まったが、五班の丁原は騒ぎを止めようとして原告の腕を引っ張り、二人を引き離した。このとき誰かが原告の後ろから原告の髪を引っ張ったので、原告は丁原が引っ張ったものと勘違いをして丁原の頬を殴り、その胸をつかんで、自分の頭を前に出し約三メートル前へ強く押していった。丁原は原告の頭をつかんで横へ放そうとしたが、背後にあった机に当って机上に腰かけるような状態でのけぞり、そのとき右足が上にあがって、右膝が原告の眼に当った。そのため、原告は本件傷害を受けたものである。

2  福本教諭の監督義務について

自習授業は、研修その他の事由によって教師が一時外出を要する場合などに広く認められているものであって、教育上も自律性、自主性の養成に重要な意義を有している。このような自習授業については、児童の年齢によって教師の注意義務の内容が異なってくる。

本件事故が発生した学級は小学校五年生の後期の学級である。その程度の年齢ともなれば、低学年の児童と異なり、学校生活にも十分の経験を積んで適合し、相当程度の自律判断能力を有している。

したがって、自習時間に関する担任教師の指導監督についても、通常は児童の自律に任せ、児童に対して適切な課題と指示を与え、他の教師に相当の監督を依頼すれば足り、常時児童を監視しなければ安全保持ができないような特別の事情が予測される場合を除き、常時他の教師を教室内に配置させることまで要求されるものではない。

本件の場合、担任教師の福本教諭は、自習授業をするにあたり、児童に対し具体的に算数の練習問題とその班別学習を指示して混乱を避け、他の班に移動することを禁止して秩序維持を図っており、さらに隣接学級の担任教師に監督を依頼し、依頼された教師は自習時間の開始にあたり、当該教室に出向いて生徒が平穏に自習が開始されるのを見届けている。

したがって、福本教諭において前記のような特別な事情を予見しておらず、かつ予測しうるような状況にもなかった本件事故について、同教諭に過失を認めることはできない。

3  西原校長の監督義務について

西原校長は、小学校校長として学校運営に関して包括的に教職員に対する指導監督義務を有していたが、自習時間の学級の監督については、四月の新学期などに職員会議で全教諭に対して指導しており、しかも、本件において、担任教師は前述のように自習時間について児童に対し相当な指導と監督をしていたのであるから、西原校長に過失を認めることはできない。

第三証拠《省略》

理由

一  事故の発生

昭和五一年一二月三日、尼崎市立園田東小学校五年三組担任の福本教諭が午後から不在のため、同組の第五校時は算数の自習時間に当てられていたこと、同日午後一時四〇分ころ、同組教室内において、丁原の右膝が原告の左眼窩部に当り、原告が左眼窩壁骨折、左眼窩鼻腔内出血、左眼麻痺性外斜視の傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故が発生した自習時間のとき、五年三組の出席児童は四一名であり、福本教諭の指示に従って一〇班に分れ、班ごとに机を寄せ班別学習をする態勢をとって静かに自習をしていた。

ところが、一〇班の原告は九班の乙山春夫と一緒に勉強をするために、自分の机を乙山の机の横に移動させた。そこへたまたま鉛筆を削りに行く途中の八班の丙川夏夫が通りかかって、原告に注意をしたところ、原告がこれに立腹して二人の間で口論となり、さらにつかみあいの喧嘩となった。それを見た同組の児童は原告らの周りに集まって来て、ある者は面白半分に原告らをけしかけたり、こづいたりし、また他の者は喧嘩を止めようとしたりして、教室内は騒然となった。五班の丁原秋夫も原告らの喧嘩を止めようとして原告らの中に入って行った。

そのうちに誰かが原告の髪を後ろから引っ張ったので、原告はその場にいた丁原が引っ張ったものと勘違いをし、同人に向って突っかかって行った。原告に押された丁原は、机の上に乗りかかってのけぞるような形となり、そのはずみで右足が上った。ところが、誰かが同時に原告の頭を後ろから強く押さえつけたために、丁原の上った右膝が原告の左眼窩部に当って、原告は前記の傷害を受けた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  責任

1  公立の小学校における校長の遂行する教育行政事務、教諭の遂行する教育活動は、国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」に当るものと解すべきであり、学校教育法等の法令により、校長は校務をつかさどるとともに所属職員を監督する義務を負い、教諭は学校における教育活動及びこれと密接不離な生活関係について、法定の監督義務者に代って児童の身体の安全を保護し監督すべき義務を負うものであるから、校長、教諭がその職務を行なうについて過失により他人に損害を与えたときは、地方公共団体はその損害を賠償しなければならないことはいうまでもない。

本件事故が自習時間中に教室内で発生したものであることは前記のとおりであるから、これについて西原校長及び福本教諭に過失があったか否かについて検討する。

2  前記一項の認定事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故発生当時、園田東小学校は校長、教頭各一名、学級担任の教諭二七名、音楽、図工、同和教育の各専科教諭三名、養護教諭一名の教職員で構成されていた。

(二)  自習授業は主として担任教師の公務出張、休暇等のときに行なわれているが、当時園田東小学校の五学年の年間自習時間は総授業時間約一一九〇時間のうち約五〇時間であった。

そして、自習授業は、児童が自ら学ぶという態度や精神を養うのに役立つもので、児童の教育活動として有効な手段の一つであるから、すべての自習時間に教師を在室させて児童を監督する教育上の必要性はないものとされていた。

また、尼崎市における研究出張日の申し合わせのために、自習授業は週のうち特定曜日に集中し、多いときには全校二七学級のうち一〇学級で行なわれることもあって、すべての自習時間に教師が在室して児童を監督することは人員的にも不可能であった。

同校の自習授業の実施にあたっては、低学年では教師が児童に課題を与えたうえ、常時在室して指導監督をするが、二学年後半ころからは、隣接学級の担任教師が初めに課題のやり方を指示説明し、これに従って児童が静かに自習を始めたことを確認してから退室し、途中で騒がしくなれば必要に応じてその都度監督に行くが、原則として自習時間の中間及び最後に自習状態の確認、監督に行くという態勢がとられていた。

そして、各学級内には児童の間で、各班を統率する班長、学級全体を統率する学級委員が選任されており、これらの者を中心として児童自らが規律を守り自主的に活動するよう指導していた。

自習時間における右の監督態勢は、本件事故の前後を通じ一貫して同校で実施されてきたものであり、また、尼崎市内の他校においても一般にこれと同じ方法が実施されている。

(三)  西原校長は毎年四月初めに、校長、教頭、学年主任、教科代表教師で組織する運営委員会において、自習授業の具体的実施方法、監督方法を学年毎に相談のうえ周知徹底させるように指示し、また、教頭、学年主任を通じて、これを各教師に指示していた。

(四)  五年三組担任の福本教諭は、西原校長からあらかじめ本件事故当日の午後全国同和教育研究協議会参加のための公務出張を命じられていたので、西原校長の指示に基づく申合せに従って、隣接学級(五年四組)担任の辻久則教諭に本件自習時間中の監督を依頼した。一方、五年三組の児童には、第四校時(午前一一時三〇分から午後零時一〇分)の終わりに、午後の第五、六校時を自習時間とすることを告げて、算数の課題を与え、前記の班別学習をすること、分らない問題は班内で小声で相談してもよいが、他の班に行ってはならないこと、静かに学習して他に迷惑をかけてはならないこと、班のことは班長が、学級全体のことは学級委員が注意をすること等を指示して注意を与えた。そして、給食指導時間(午後零時一〇分から同五〇分)の終わりにも、再び同じ注意を繰り返してから、職員室に戻った。同教諭は第五校時の始まる午後一時一〇分ころ、職員室から同組教室に校内電話をかけて、教室内が静かであることを確認し、電話を受けた児童に規律を守って自習するように指示をしたうえで学校を出た。

福本教諭から監督を依頼された辻教論は、第五校時の初めに五年三組の教室に行って、課題のやり方の説明をし、児童が静かに自習を始めたことを確認してから、隣接学級に戻って授業をしていたが、静かであった五年三組の教室内が急に騒がしくなったので、同組教室の様子を見に行ったところ、既に本件事故が発生していた。

(五)  五年三組の児童は自主的活動が活発で、学年初めの四月から本件事故当日までの間に、何度も自習時間を経験していたが、その間口論はともかくとして、本件のようなつかみあいの喧嘩は一度も起きたこともなく、また、平素から素行等につき問題となる児童も見当らなかった。園田東小学校全体としても自習時間中に児童間の喧嘩による事故の発生はかつてなく、西原校長も福本教諭も本件事故の発生を予見していなかった。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

3  ところで、自習授業は専ら児童の自主的活動に委ねるものであって、担任教師の不在のため止むをえず実施されることが多いものであるが、一方、児童の自主自律の精神を養成するうえで教育上積極的な意義をも有するものである。したがって、自習時間中の児童の監督については、児童の自律判断能力の程度に応じて、右の教育的配慮もしつつ、児童の安全保持の観点からそれぞれ異った内容、程度の監督が要求されるものというべきである。

児童は五学年の後半ともなれば、既に多くの経験を積んで学校生活に適合し、相当程度の自律判断能力を有しているものとみられるから、教師が常時在室もしくは見回りをして監督しなければ自習時間中の児童の安全を保持することができないと予見しうるような特別の事情がない限り、園田東小学校をはじめとして他校でも広く実施されている前記2項の(二)認定の程度の監督をもってすれば足り、校長は代りの教師に常時在室もしくは見回りをさせて児童を監督すべき注意義務を負わないし、また、担任教師も校長に代りの監督教師の配置を依頼したり、他の教師に常時の見回りを依頼すべき注意義務を負わないものと解するのが相当である。

本件においては、前記認定のとおり、福本教諭は西原校長の指示に基づく申合せに従い隣接学級の担任教師に監督を依頼し、また、児童に対し自習時間の学習方法及び規律について十分な指示と注意を与えており、西原校長も福本教諭も当日の自習時間について本件事故の発生を全く予見していないのであって、前記一項及び二項の2の(五)の認定事実によれば、事故の発生を予見しうるような事情も存在せず、本件事故は全く偶発的なものであったものと認められるから、前記特別の事情は存在しなかったものというべきである。したがって、本件自習時間については、西原校長には代りの教師に常時在室もしくは見回りをさせて児童を監督させる注意義務はなかったし、福本教諭には校長に代りの教師の配置を依頼したり、他の教師に常時の見回りを依頼すべき注意義務はなかったものというべきである。

そうすると、西原校長及び福本教諭が右各注意義務を怠ったとする原告の主張は理由がない。

三  結論

以上の次第であるから、西原校長及び福本教諭の過失の存在を前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 上原理子 永松健幹)

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